
「本と山」OUTDOOR READING
2018.8.28
中澤 佑
突然ですが、皆さんはどんな場所で本を読みますか?
例えば、
自分の部屋のお気に入りのソファの上で。
ハンドドリップの珈琲がおいしい古めかしい喫茶店で。
待ち合わせの時間まで公園の木陰のベンチで。
おもしろそうな本がずらりと並んだ蔵書が抜群の図書館で。
推理小説なら、寝る前のベッドの上なんていうのもいつもの定位置でしょう。
日ごろの疲れを癒しつつ半身浴のお風呂の中で、というのもつい読みふけってしまう場所のひとつです。
最近見かけることが少なくなりましたが、通勤途中の電車の中というのも、もしかすると一番本に夢中になれる読書空間なのかもしれません。
人それぞれにお気にリの読書空間というのが幾つかあって、気分によって使い分けて楽しむというのが最高のBOOK LIFEなのだと思います。
そこで、私がぜひお薦めしたい読書空間が「山」です。
森とか自然公園ではありません。
10キロ近い荷物を背負って、大量に汗をかきながらひたすら登らないとたどり着けないあの山です。
せっかく登ったのに読書なんてもったいない、という人もいるかもしれません。
頭がからっぽになるくらい苦労して登ったあと、世俗から遠く離れた自然の中、風の音や鳥の囀りをBGMに本を読むと、下界でのそれとはまったく違う読書体験が味わえます。
それは”圏外”であるということが大事な要素なのかなと思います。
文字通り日常からは切り離されて、どこまでも続く山々や豊かな自然に思いっきり自分を解放して本を読みふけってみる。
読書のためだけに山に登る「読書登山」は究極のOUTDOOR READINGなのです。
先日、休みを利用してそんな「読書登山」をしてきました。
場所は北アルプス、北穂高岳。
1日目はあいにく雨模様でしたが、こんな時こそ山小屋でひたすら読書。
薄暗いランプの中、雨の音を聞きながら読書しかしないというのは何とも贅沢な時間です。
2日目は天気に恵まれ、高山ならではの日差しを浴びながら外でのんびり読書。
遠くにイワヒバリやキビタキの声が聞こえます。
今回持ってきた本は2冊。
串田孫一さんの『山のパンセ』
山の文芸誌『アルプ』創刊メンバーであり、詩人、哲学者の串田孫一さんが四季折々に巡った様々な山行や、山にまつわる思索を綴った随筆集です。
平明でありながら詩情がにじみ出る文章は一文一文を味わうように大切に読みたくなります。
山の中でいろいろ考えを巡らせながら読むのに最適な1冊です。
言わずと知れた山岳小説の代表作 井上靖さんの『氷壁』
切れるはずのないザイルが切れて滑落した登山家の死をめぐる重厚な人間ドラマです。
この小説には穂高連峰の麓の上高地にある徳澤園という山小屋が登場します。
この写真がそうなのですが、とてもきれいで明るいテント場が有名で、芝生に寝転がりながら読書していると、時が経つのを忘れてしまいます。
ちなみにこの小説は意外にもドロドロした人間模様が物語のメインで、峻厳とした自然との対比が読み応えあります!
この他にも、山で読む本としてお薦めしたい本はたくさんあります。
『ウォールデン 森の生活』H・D・ソロー
『木』幸田文 新潮社
『本のある山旅』大森久雄 山と渓谷社
『定本黒部の山賊』伊藤正一 山と渓谷社
『青春を山に賭けて』植村直己 文藝春秋
『人はかつて木だった』長田弘 みすず書房
『旅をする木』星野道夫 文藝春秋
『柳宗民の雑草ノオト1,2』柳宗民 筑摩書房
等々。
全部持っていきたくなりますが、それにはなかなかの気合が必要そうです。
大げさに言うのなら、登山は「限りなく体育会系に近い文系」だと思っていて、ただの運動やスポーツではなく、思考や哲学や芸術や詩などと親和性が高いような気がします。
あの山の向こうにどんな景色が待っているのか、そんな未知なる体験を目指して登っていく山と、この本を読み終えた先に自分にどんな変化が待っているのか、何もわからないまま読む進める読書と、もしかしたら似ているところがあるのかもしれません。
これからの秋山シーズン、「読書登山」でOUTDOOR READINGを試してみてはいかがでしょうか?