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「くる話」#3 揃ってくる話

2018.10.15

有地 和毅

1分間に読む語数をWPM(Words Per Minute)という。
読んでいる時にBGMとしてかける音楽のBPMとWPMが一致するならば、
本を読むことはラップに接近する。

眠れない夜には心臓音が邪魔をする。
"気がかり散らばる秒針の音 心臓音 耳障り眠れない every night フルムーントレイン"
MSC「無言の蓄積」のO2のラインだ。
心臓のBPMと音楽のBPMと本を読むWPMが一致するならばどうだろう?
さらに時計の秒針の音までが重ね合わせられるなら?
そしてあらゆる物質の発する振動がシンクロしていく。
ボードレールの万物照応、
ル・クレジオがパナマのジャングルで感覚したものとも似ている。
あらゆる物質の振動がポリリズミックに同期する。
椎名麟三が描いた監獄そのものに同期することで、
そこから自由になる囚人の姿を思い出したりもする。
横尾忠則が座禅の中で自由になったのも状況への同期がきっかけだった。

世界とのズレがリズムによって顕在化するのであれば、
世界との同期へと導いてくれるのはリズムかも知れない。
眠れないベッドの底であなたが聴く音楽。
誰とも話せない夜にダンスフロアで揺れるわたし。
リズムを介して、間接的に、ゆるやかに、
知らず知らずのうちにシンクロする。
「会えない夜には、0時きっかりに同じ曲を聴こうよ」
そんな昔の約束を思い出したりもする。
(どの曲を聴くのだったかはさっぱり思い出せないけど。)

心臓音、身体の発する音。
お腹に耳をあてて内臓がコポコポと鳴るのを聴くのは心地いい。
誰かの生の生存。生物としての生存を感覚する。
血管の中を血が流れるのは海に潜ったときの音に似ている?
ヒューマンビートボックスに魅力を感じるのは、
コントロールされ、ドラムマシンに近似していく声の隙間から、
息遣いの生々しさが感じられるからだ。
呼吸音から始まるKraftwerkの「Tour De France」。
ヒップホップのアルバムのスキットに収録された性行為をする際の呼吸、声。
ASMR、ミュジーク・コンクレート、具体的な音の聴取行動。
テクノロジーと身体の間でやりとりされる音の群れ。
(或いは、J Dillaのヨレたビートとそれをトレースする生身のミュージシャンたち。)
2016年にリリースされたMatthew Herbertの『A Nude (The Perfect Body)』では
身体が発する音から音楽がつくられている。
「Is Eating」(https://soundcloud.com/accidentalrecords-1/is-eating-demo)は、
さまざまな咀嚼音が組織され、おぼろげな音像から律動が浮き上がってくる。

身体はリズムを持っているし、
それを他者との間で交換したりもする。
音のやりとりの中で相互に内部環境をモニターしながらリズムを同期させていく。
話し手の息継ぎと聞き手の相槌は、
会話というより呼吸器官同士のコミュニケーションと捉えるとわかりやすい。
リズムによるコミュニケーションは絶えず生じていて、
長時間接する相手とは話し方のリズムが揃ってくる。
息が合うというのは、リズムの話である。
呼吸、歩幅、瞬きなど繰り返しの構造を持つものは同期しやすい。
たぶん思考にもリズムがあって、
ロジックの切れ目とその積み重ねのタイミングが同期すると、
論理展開が似てくるのかも知れない。
そんな気がする。

わたしはずっと音楽を聴きながら本を読むことにこだわっている。
本を読むときは音楽をかけないという人もいるだろうし、
読むことに集中したら音楽が聞こえなくなる時もある。
でも音楽のリズムが本を読むことを助けてくれる時がある。
別の音楽を聴きながら読んだら別の本みたいな気がする。
本のリミックス。

いつも真夜中に文章を書いてしまう、
YOURS BOOK STOREブックディレクターの有地和毅でした。

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