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「箱根本箱」日々と本。0403

2019.4.3

染谷 拓郎

立ち上がりは三者凡退。大歓声に囲まれピッチングするのは最高の気分だ。今年のキャンプで習得した高速スライダーは外角から右打者の内角をえぐる。僕はサウスポーなのだ。

昨日の時点で棚卸自体は終わっていたので、今日は棚のメンテナンスからスタートする。これがやはり時間がかかるが面白みのある作業だ。お客様がどんな気持ちでチェックインして、最初に目が入るところにどんな本があるといいか。

今までこだわっていたジャンル構成を今回思い切って変えてみる。手が取りにくかった本を棚から降ろしてみると、とても魅力的な本がたくさんあった。

5回表、今季からチームに加わったショート・ポジションの3番バッターがソロホームランを放つ。いいぞ、1-0。僕はランナーは出すものの、まだ点は取られていない。

お昼を挟んで、午後の作業がはじまる。残された箇所をひたすら手を動かして棚を作っていく。バスキアの横にグラフィックアートの本、ジャコメッティの隣に矢内原伊作の本を置く。少し頭痛がするが、仲間もどんどん手を動かしているので僕だけがサボるわけにはいかない。

7回に下位打線がヒットで続いたので、僕はここで代打で交代かと思ったが、バントの指示。オーケー、初球でキチンとキメる。2アウト3塁2塁。次の1番は3球目をスコーンとかっ飛ばし、タイムリーヒット。これで3-0だ。このゲーム行けるぞ。

大方の作業が終了。館内をそれぞれ周って問題がないことを確認する。ピシッと決まった本棚にウットリする。よし、帰ろう!西日が眩しいのでサングラスをかけて運転する。BGMはくるりの「ソングライン」だ。道も空いている。良い。

監督に「いけるか?」と言われ、行けると答える。現役10年、久々の完投試合になるかもしれない。

新幹線の時間は16時42分。これに乗れると完璧だ。今33分。大丈夫、小田原駅はもうすぐだ。「僕は切符持ってるんで、先に行って切符買っておいてください。レンタカー清算して追いつきます。」

簡単にアウトを2つ取ってからが長い。ひとり、ふたりとランナーを出し、4番バッターとの勝負は結局フォアボールに。塁は埋まった。でも、ツーアウトだ。あとひとり。

レンタカーを返却する。顔馴染みなので店員さんと会話する。「サングラスかっこいいですね!」「いや、一万円もしないし、度も入ってるし」「度入りのサングラスなんてあるんですね!いいなあ」ひとしきり褒められて嬉しくなる。小走りで駅へ。41分。間に合う。プルルとベルが鳴る。車内に滑り込む。完璧だ。

ツーストライク、ツーボール。頭は冴えている。身体は動いている。スタジアムは静まり返っている。キャッチャーは一球外そうとサインを出すが僕は首を振る。ここは、高速スライダーで仕留めよう。これでゲームは終わりだ。

棚卸はミスなし。本の入れ替えもうまくいった。予定より早い新幹線にも乗れた。完璧!と悦に浸っているスマートフォンに着信。トヨタレンタカーとある。

「あ、染谷さん!あの、ノーマルメガネ車内に忘れてますよ!」「え、あ、ほんとだ…」「どうします?」「あと、送ってください。着払いで…」「ご住所は?」

サングラスを褒められた時点で気付くべきだったのだ。いつものメガネはどうした?と。

ああ、明日自宅に届くとしても、朝に仕事に出るわけだから、明日は1日メガネなしだ。サングラスで仕事をするわけにはいかないだろう。裸眼じゃ何も見えない。じゃがいもとエリック・クラプトンの見分けすらつかない。最後の最後にやってしまった。ああ。

最後の一球、あれだけキャンプで練習したんだ。これしかないだろう。高速スライダーを目一杯の力で投げる。刹那にコン!と小気味いい音が聞こえ、打球は頭上を越えていった。大歓声、伸びる打球。満員のレフトスタンドに吸い込まれていく。アナウンサーが声の限りに叫ぶ。バッターは塁を笑顔で駆け抜け、ベンチから出てきたチームメイトにもみくちゃにされながらホームベースを踏む。逆転満塁ホームラン。3-4。ああ。

…ということで、2019年春の棚卸三部作をこれで終わります。ああ、明日どうしよう。眉間にシワが寄っていたらすいません、ほんとに何も見えないんです。

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